未来に続く風

 皆様お元気ですか。 いつもより元気ライフがお手元に届く時期が遅れてしまいました。社内では紙面の校正依頼と同時にこの「思いつ記」を綴っていますが、遅れた分だけ最新の出来事、当社の塗装技術セミナーについてお知らせしますね。

 このセミナーは当社が毎年行う専門分野セミナーで、今回は「工業塗装の未来を考える」と題して、講師を塗装機業界のカリスマ、佐々木栄治氏にお願いをしました。(当社でもお取引ある塗装ロボットメーカー、タクボエンジニアリングの創業者であり社長さんです)

 工業塗装の業界は長らく閉塞した雰囲気が漂っていて、関係者が会えば枕詞のように「忙しいばかりで儲からない」とか「仕事が薄い」を唱えてしまうのが実際です。
佐々木氏は、この業界における様々な常識は、あるとき、誰かの都合で一般化したもので、外から見れば不合理な仕組みにすぎない事実を次々に明らかにしていきます。手入れすら自由にできないようなつくりの塗装用具や、汎用性の高さを狙って分業化やユニット化が進んだ結果、使い勝手も悪く完成度の低い塗装ロボットなど、「与えらえること」に慣れた私たちにとって疑問と思わなかったことの多くに、改善や革新のチャンスを見出していきます。確かに佐々木社長の製品は、同業のメーカーには無いものばかりで、代理店を通さないダイレクト販売も業界では異例です。

 値段を聞いて「とても買えない」と尻込みするお客様は少なくないようですが、5年もすればそれ以上の費用になるはずの毎日のロスには目をつぶれる、そんなおかしな経営ぶりも厳しく断じています。
韓国や中国、インドネシアなど海外が売上の中心となっているのは、買うときの値段は高いが、普段のロスがない分価値があると合理的に決められるから。日本の遅れは「決められない」「少しの痛みなら放置し続ける先延ばしの甘え」にあると感じないわけにはいきません。

「儲かる話がない」ということなら、それも違うのだとエールもおくってくれました。工業塗装の分野は古くからロスの多い仕事とされてきたので、いかに塗装レスにするかを様々な素材メーカーが挑戦しています。しかし、少量でデザインの自由度を満たすのに、塗装費用を下回ることが至難なのは明らかだというのです。であれば、世の中から塗装がなくなる恐怖におののくより自分の得意な技術を究めることに意味がある。

 事実、深みあるボディーカラーでヒットするM社の車は10層以上の塗り重ねでかつてない"曲面部の見え"が魅力です。また、T社の新型プリウスにはいよいよ室温の上昇を抑える遮熱機能を持った塗装が採用され、セールスポイントの一つになっています。「工業塗装業者は塗膜メーカーになれ」のメッセージで締めくくられたセミナーに、会場は大きな拍手で応えました。

「ずっと抱いていた閉塞感だが、世界の先端で業界に何が起きているかを聞けば、業界は全く閉塞していない。そう思い込んで何も見ようとしてこなかっただけ。」ある社長さんから頂いた感想が印象的でした。

 総じて言えば、日本経済は確かにゼロ成長なのかも知れません。でも、その成り立ちは以前とは全く異なる要素で織りなされています。漁師や農業を営む人たちが、風や雨など四季折々、日々刻々と変化する自然現象の一つひとつに名前をつけて、自然と共に生活していたように、当社も塗膜メーカーたるお客様の応援者として、ビジネス界に吹く風、降る雨など刻々と変化する経済現象に応え続けたい。未来に続く風も季節も必ずあるのだから、それを感じて。

プラスデコ代表 原田 学